ラノベ部&決闘部【生徒会の一存+遊☆戯☆王】



生徒会の五彩』を読んだら、前々から妄想していた「決闘する生徒会」が実際に収録されていたうえ、会長の無敵能力からミジンコ転移コンボまでほぼすべてが自分の想像通りに展開してして、軽く驚愕を覚えました。むしろ惚れました。


というわけで、記念にこの企画。
以前にもちょっとだけ触れたことあるけど、改めて。


生徒会の二心』第五話「勉強する生徒会」より、真冬ちゃん出題の『国語の問題』を、大真面目に解いてみました。

該当箇所の引用(P.133〜P.134)



真冬「いいですか、会長さん」
会長「うん!」
真冬「まず、国語とはすなわち……シナリオです!」
会長「し、シナリオ?」
真冬「そうです! ゲームやアニメにおける、シナリオの部分にスポットを当てたもの。これが、国語です」
会長「は、はぁ」
真冬「それを踏まえた上で、考えてみましょう。例えば文章問題。『相手が攻撃を宣言したこの瞬間、トラップカードオープン! 手札のマジックカードは全て墓地へ捨てられる!』という文章があったとしましょう」
会長「絶対そんな問題は出ないと思うけど……まあいいわ」
真冬「では会長さん。この場面の後に考えられる、相手のリアクションとして最も妥当な台詞を答えて下さい」
会長「なんの問題!? それ、国語!?」
真冬「国語です! まごうことなき国語です! さあ!」
会長「うぅ……ええと……『うわぁ、しまったぁ』とか?」
真冬「そんなことだから成績が悪いんですよ、会長さん!」
会長「ひゃうっ」
真冬「いいですか。今の場合はこうです。『甘いな! 伏せカードオープン! この瞬間、トラップカードの効果は全て無効となる!』ですよ!」
会長「分かんないよ! 逆転させるかどうかは、その人の匙加減じゃない!」
真冬「はぁ……。駄目ですね、会長さん。会長さんには、クリエイティブ精神が足りません」
会長「国語のテストにクリエイティブ精神持ち込むの!?」


↑の問題に対して、真剣に考察を加えていきます。


結論から先に言うと、この問題、意外にも、予想に反してむちゃくちゃ良問でした。

はじめに



まず考えなければいけないことは、これは『国語の問題』であるということです。
国語の問題である以上(しかも高校の)、そこには明確な採点基準が存在していなければいけません。生徒の能力を客観的に測るためには、採点者の趣味趣向に依存しない、確固たる採点基準が必要なのです。


では、この問題における「採点基準」とは何なのでしょうか。
一見するとこれは、生徒の数だけ正解があるような、どう答えても構わない類の設問に見えます。しかし、この問題で要求されているのは、相手のリアクションとして『最も妥当な』台詞です。この指示があるおかげで、結果的に「正解」がただ一通りに定まってくれるのです。


たとえば、崖から落ちた主要登場人物の生死が確認されていない場合、その人物は実は生きているのが『最も妥当な』展開でしょう。たとえば、主人公に敗れ、醜態をさらして命からがら逃げ出した悪役が「まだ終わっちゃいない。これさえ残っていれば……まだいくらでもやり直しがきく」などと発言した場合、その直後に格上の悪役に粛清されるのが『最も妥当な』展開でしょう。
この問題で回答者に求められているのは、こういうことだと考えられます。これが大前提です。


それでは、これを踏まえた上で、会長さんと真冬ちゃんの回答を見てみましょう。
まずは会長さんの回答、『うわぁ、しまったぁ』。これは、もちろん論外です。1点ももらえないでしょう。なぜなら、この回答は問題文で与えられた条件を完全に無視しているからです。
そもそも、本当に『うわぁ、しまったぁ』が正解になるのならば、問題文は『トラップカードオープン!』だけで済むはずです。そこにわざわざ『相手が攻撃を宣言したこの瞬間』や、『手札のマジックカードは全て墓地へ捨てられる!』などの条件が加えられているということは、これらをきちんと活かして「最も妥当な」展開を考えて下さい、ということに他なりません。
というわけで、真冬ちゃんの回答も当然アウトです。『甘いな! 伏せカードオープン! この瞬間、トラップカードの効果は全て無効となる!』も、これらの条件をガン無視しています。駄目な子です。そもそも「相手のカード効果を無効化!」なんていう安直な逆転劇、決闘小説においては三流もいいところです。確実に読者は萎えます。こんなんでクリエイティブ精神を語ってます。笑わせます。駄目な子です。


それはさておき。
いよいよ「この問題をどうやって解くか」という話に入っていくわけですが、その前に1つだけ、確認しておかなければならないことがあります。
それは、オリジナルカードを使用することが認められているかどうか、という点です。
この現実世界で市販されている遊戯王OCG(Official Card Game)のカードに対して、そうでないカード、たとえば決闘小説における作者の創作カードなどを、オリジナルカード、略してオリカと呼びます(ここでは一応、原作漫画のカードや、アニメ・ゲームのみに登場したカードも、オリカに含めておきます)。この問題を解くときに、オリカを使うことが認められるのか否か。これを明確にしておく必要があります。
問題文中に出てきた、『相手が攻撃を宣言したとき、手札のマジックカードは全て墓地へ捨てられる』という効果のトラップカード。この、ゲームバランスを崩壊させかねないほど強力な効果を持ったトラップカードは、もちろんオリカです。では、問題文中でオリカが使われているのならば、回答中でオリカを使うことも認められているのでしょうか。
答えは否です。なぜなら、回答者もオリカを使っていいとするならば、本当に何でもアリの問題になってしまうからです。極端な話、「速攻魔法発動! このマジックは、『攻撃宣言時に、手札の魔法を全て墓地へ捨てる』効果を持ったトラップカードの発動と効果を無効にして、それを破壊する! さらに、相手に3000ポイントのダメージを与える!」などのピンポイント対策カードを作ってしまえば、条件をすべて活用できるため、それで正解になってしまいます。さすがにこれはありえません。
たとえば、「キログラム原器の質量が2倍になったとき、1アンペアは何アンペアになるか?」という問題を解くときには、「キログラム原器の質量が2倍」というオリカの存在を仮定した上で、他には勝手な仮定をおかずに、回答しなければいけません。それと同じです。問題文中には明示されていませんが、「オリカを使ってはいけない」というのは、暗黙の了解だと考えられます。これを守らなければ、この問題は、問題として成立しないのですから。


それでは今度こそ、具体的な解法に話を移します。

ここまでのまとめ



Q.『相手が攻撃を宣言したこの瞬間、トラップカードオープン! 手札のマジックカードは全て墓地へ捨てられる!』 この場面の後に考えられる、相手のリアクションとして最も妥当な台詞を答えなさい。


生徒会の二心』で出題された、この問題を解くことが目標です。
問題文に与えられた条件を活かして、この場面に続く(決闘小説として)最もありえそうな展開を考えます。その際、他に勝手な仮定をおいてはダメで、もちろんオリカを使用するのも禁止です。

考え方と解答



以後、問題文中でトラップを発動した人物を「敵」、敵と対戦しているデュエリストを「主人公」と呼称します。


『(1)相手が攻撃を宣言したこの瞬間』『(2)トラップカードオープン!』『(3)手札のマジックカードは全て墓地へ捨てられる!』。与えられた条件は、大きく分けてこの3つです。


まずは、敵はどうして主人公の攻撃宣言時にこのトラップを発動したのかを考えてみましょう。もちろん、正確な理由など知るよしもないので、あくまでも『最も妥当な』理由は何か、という意味です。ゆえに、「気の迷い」「なんとなく」などの回答は誤りです。
手札のマジックを墓地に捨てさせただけでは、主人公のモンスターの攻撃を止めることはできません。このままでは、ただ敵が攻撃を受けてピンチになるだけです。それなのになぜ、敵はこのタイミングでこのトラップを発動したのでしょうか。
考えられる理由はただ1つ。それは、主人公の攻撃モンスターが、手札の数だけパワーアップする効果を持っていたという状況です。
生徒会の二心』が発売された段階で、このような効果を持つモンスターは、『ムカムカ』と『激昂のムカムカ』の2種類だけです。


『ムカムカ』 効果モンスター ★★ 地・岩石 攻600・守300
このカードが表側表示でフィールド上に存在する限り、コントローラーの手札1枚につきこのカードの攻撃力と守備力は300ポイントアップする。


『激昂のムカムカ』 効果モンスター ★★★★★ 地・岩石 攻1200・守600
自分の手札1枚につき、このカードの攻撃力・守備力はそれぞれ400ポイントアップする。


この2体の間に本質的な差はないので、どちらを使っても正解になるでしょう。とりあえずここでは、逆転劇を盛り上げる意味で、攻撃力の上がり幅が大きい『激昂のムカムカ』を使うことにします。


ここでいったん、これまでの状況を整理します。
「主人公(手札5枚)が、『激昂のムカムカ(攻撃力1200+400*5=3200)』で、敵の『サイバー・ドラゴン(攻撃力2100)』に攻撃宣言したところ、敵はトラップを発動してきた。主人公の手札にマジックは3枚。『激昂のムカムカ』の攻撃力が2000ポイントにまで減少する。『激昂のムカムカ』の攻撃は止まらない(ルール上、攻撃力が変化しても一度下した攻撃宣言は取り消せない)。このままでは『サイバー・ドラゴン』に返り討ちにされてしまう。主人公ピンチ」
主人公の手札枚数、マジックの枚数、相手の場にいるモンスター、といった要素は、適当に設定しました。ここは、矛盾が生じないように設定されていれば、別に何でも構わないでしょう。


ちなみに、ここまで分かると、つい焦って、
主人公「甘いな! リバースカードオープン、『強欲な瓶』! その効果で俺は、カードを1枚ドローする! これで、『激昂のムカムカ』の攻撃力は2400! 『サイバー・ドラゴン』を上回る!」
とか回答してしまいがちなのですが、これだと50点です。作問者の仕掛けた罠に、見事に引っかかっています。
なぜなら、この回答では、問題文の「手札の『マジックカード』は全て墓地へ捨てられる!」。という条件を活かしきれていないからです。ここでさりげなく、わざわざ『マジックカード』と指定しているのには、重要な意味があるのです。これが、モンスターカードやトラップカードなら、この問題は成立しません。
具体的には、このマジックカードが最大の鍵となります。


『おジャマジック』 通常魔法
このカードが手札またはフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキから「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」「おジャマ・ブラック」を1体ずつ手札に加える。


生徒会の二心』が発売された段階で、手札から墓地へ送られることによって効果を発動するカードは、モンスター・トラップを合わせても、この『おジャマジック』1種類しか存在しません。しかもその効果は、プレイヤーの手札を増やすものです。要するに、主人公の手札に『おジャマジック』があれば、敵のトラップの効果を逆手に取って、逆に自分の手札を増やすことができるのです。つまり、『激昂のムカムカ』の攻撃力が、再び『サイバー・ドラゴン』を上回ります。
この、すべてのピースが収まるべきところに綺麗に収まったような感覚。これを作為解と呼ばずしてなんと呼ぶのか。というわけで、これが模範解答となります。別解がないことを示すのは困難ですが、少なくとも自分がさんざん考えてみた限りでは、これを上回る解は見つかりませんでした。


以上の議論をふまえて、今後の「最も妥当な」展開を決闘小説風にまとめてみると、次のようになります(先にも述べた通り、細かい状況設定は回答者の匙加減に任せられています)。




敵「相手が攻撃を宣言したこの瞬間、トラップカードオープン! 手札のマジックカードは全て墓地へ捨てられる!」
主「……俺の手札に、魔法カードは3枚ある。……それらを全て、墓地へ捨てる」
敵「ハハッ! これでお前の『激昂のムカムカ』の攻撃力は2000! 返り討ちにしろ、『サイバー・ドラゴン』! 迎撃のエヴォリューション・バースト!!」
主「…………それはどうかな?」


 激昂のムカムカ 攻撃力:5600


敵「何……っ! バカな! 攻撃力……5600だと!?」
主「ふっ……。俺が捨てたマジックカード。それは、3枚とも『おジャマジック』だったのさ。その効果で、合計9枚のおジャマを手札に加えさせてもらった」
敵「な……! このオレが、こんな屑野郎に負ける、だと……!」
主「攻撃力5600の激昂のムカムカで、攻撃力2100のサイバー・ドラゴンを攻撃だ! ムカムカ・インパクト!!」
敵「ぐあああああああっ!」


 敵ライフ:3500 → 0




あとは、この流れを理解していることを採点者にアピールできるような回答を作成すれば、満点がもらえることでしょう。


ちなみに、問題文には「手札のマジックカードは全て『墓地へ捨てられる』!」と書かれており、一方で『おジャマジック』の効果テキストには「このカードが手札またはフィールド上から『墓地へ送られた時』」と書かれています。遊戯王OCGでは、『墓地へ捨てる』と『墓地へ送る』は異なる概念なので、これではダメなのでは? と思ってしまった人もいるかもしれません。
結論から言うと、これはOKです。『墓地へ送る』と『墓地へ捨てられた』ことにはならないが、『墓地へ捨てる』と『墓地へ送られた』ことにもなる、というのが公式ルールです。そのため、『墓地へ捨てた』場合、『墓地へ送られた』時に発動する効果は、きちんと発動します。
問題文に出てくるトラップの効果が、『墓地へ捨てる』であっても『墓地へ送る』であっても、この問題は問題として成立します。それなのにわざわざ『墓地へ捨てる』と書いてあるということは、この問題には、この非常に紛らわしい遊戯王OCGのルールを回答者がきちんと把握できているか試す意図が込められているものと思われます。

解答例と採点基準



Q.「相手が攻撃を宣言したこの瞬間、トラップカードオープン! 手札のマジックカードは全て墓地へ捨てられる!」 この場面の後に考えられる、相手のリアクションとして最も妥当な台詞を答えなさい。


A.「ふっ……。甘いな。俺の手札は5枚。そのうち3枚は『おジャマジック』だ。つまり、お前のトラップ発動によって、俺の手札は11枚まで増加した! これで俺の『激昂のムカムカ』の攻撃力は5600! お前の『サイバー・ドラゴン』を、再び上回る! お前のライフは残り3500! これで終わりだ! 行け、ムカムカ・インパクト!!」


<採点基準>(推測)
重要なのは、『手札の数だけパワーアップするモンスターで攻撃宣言した時』という状況を設定できることと、さらにその上で『おジャマジック』の使用に至れること(『墓地へ捨てる』『墓地へ送る』ルールを理解していることが必要)の2点です。この問題の配点が100点だとすると、これらのポイントにそれぞれ50点ずつ割り振られて計100点、というのが普通の採点基準ではないでしょうか。
なお、この流れに沿わない解答はすべて0点になるのか、はたまた妥当性や条件の活用度に応じて部分点がもらえるのかは不明です。採点を楽にしたい場合は間違いなく前者でしょうが。

問題に対する講評



これまでの議論でお分かりの通り、この問題は、問題としてちゃんと成立していることはもちろんのこと、かなりの良問です。


遊戯王に関する広く深い知識はもちろん、それを自在に引き出し活用する実践力、与えられたすべての条件が綺麗にかみ合うように逆転劇を構成する論理力、ついでに不足気味の問題文から作問者の意図をきちんと読みとる力、などが広範に要求されます。
さらに、模範解答は、大きく『(激昂の)ムカムカ』と『おジャマジック』の2要素に分割できるため、部分点を与えることができて、満点or零点だけの問題よりも細かく生徒の能力を測ることができます。


そして、この問題が良問である最大の理由は、この模範解答が、決闘小説の一展開として見たときにも、わりあい優れた逆転劇であることが挙げられます。やはり、相手の力を逆用して勝つというのは、良質の逆転劇のお手本でしょう(もちろんそれが絶対的な評価基準ではありませんが)。
問題文の指示を全て活かしたデュエル構成をしようとすると、必ず、この優れた逆転劇に行き着きます。つまりは、生徒の能力を測るだけではなく、問題を解くことそのものによる生徒への教育効果が大きいのです。なんたる良問でしょうか。


ちなみに自分の場合は、まず「いい感じの逆転劇を構成しよう」と考え、直感的にこの解答を導きました。その後、一から理詰めで解いてもまったく同じ結論を得られることに気づいて、今に至ります。
このように、決闘構成慣れした人なら即座に感覚的に解けることも、この問題の魅力の一つだと思います。

おわりに



ここまで深い良質な問題を、さらりと流せる葵先生は神。


これだからセッキーナのファンはやめられませんや。