涼宮ハルヒの驚愕 内容予想 Part 4/4



「それではすべての可能性が消されたことになります。何も残りません。無限から無限を引き算したようなものでしょう」
「無限から無限を引いても、残るのは無限だよ」
茉衣子は滋の間違った訂正を無視して続ける。
「ツジツマの合わない可能性をすべて消去して、あげくゼロになったのだとしたら、いったい本当の解答は何になるのですか? 解答が出ないからといって問題がなくなるわけではないのですわよ。世界がαとβの2つに分裂したのは誰もが認める事実です。実際に、αとβの世界が交互に語られているのです」
しかし滋は平然とした顔で、
「最初の前提が誤りだったとしたらどうだろうね。問題の内容に間違いがあったら、導き出される解答が正しくなることもありえない。この場合もそうだよ、前提が事実とは違っていたんだ」
「世界が分裂したというのは間違いだと言うのですか? でも、確かにこうして世界は分裂しているではないですか」
「いいや。流は物語をαとβに分けただけだ。それを世界の分裂と定義したのは我々のほうさ。間違っていたのは、俺たちの認識だよ」
「それのどこが間違いなのです。そのまんまではないですか」
「物語はαとβに分かれた。だが、世界は分裂していなかったとしたらどうかな」
「意味が通りません」
「いいかな。光明寺、そもそもキミは、どうして『世界が分裂した』と思ったんだい?」
「それは……物語がαとβに分かれているから……」
「そうじゃない。キミはどうして、『物語がαとβに分かれている』ことが『世界が分裂した』ことになると思ったんだい?」
「……そう、タイトルですわ。涼宮ハルヒの『分裂』。これが動かぬ、間違っていようのない前提です!」
「なるほど。それでは改めてキミに問おう。涼宮ハルヒの消失で、涼宮ハルヒは『消失』していたのかい?」




――というわけで、驚愕の内容を予想するにあたって、まずハッキリさせておかなければならないことは、物語がαとβに分かれたことの『意味』。理由ではなく『意味』。


涼宮ハルヒの「分裂」。このタイトルのせいで、第二章を読み始めた瞬間に、大抵の読者は「ああ、ハルヒごと世界が分裂したんだな」と思い込んでしまうことになる。いや、タイトルのせいだけではなかろう。このような手法によって、ほとんど同じだが微妙に異なる世界、「パラレルワールド」を表現した作品など山のようにある。それらに対する知識を持っているがゆえに、「世界が分裂した」という考えに凝り固まってしまう、ということも原因の一つである。
加えて、流作品をある程度読んでいる人ならば、「涼宮ハルヒの分裂」というタイトルが発表された時点で、「ハルヒが分裂するのか」→「学校(2)(3)であれだけ人(シム)増やしておいてまだ増やし足りないのかよ」→「そういえば陰謀でも増やしたばっかりだな」→「そうなると、もういい加減世界ごと増やすしかないだろう」という思考のもと「世界が分裂する」という予想を容易に立てることが可能である。そのため、「予想が当たったという喜び」によって、一度当たったと思い込んだ予想を覆すような思考をすることが困難になってしまう。仮に読む前にそれを思いつかなかったとしても、P.100の「結果として、その俺の予想は文字通りに半分当たりで、半分は外れることになる。」という文を読むと、「ああ、ハルヒは世界ごと分裂するんだろうな」と予想できてしまうため、結果は似たようなものである。
さらに加えて、我々には「猫はどこに行った?」「キョンの小説内小説」「佐々木の性別が分かるまでの展開」などによって、「ながるんにはミステリとかミスリードとか書くの無理」というイメージが散々植えつけられているので、流作品にこんな大規模なミスリードが仕掛けられているなんて普通は思いもしない。
というわけで、世界が分裂したと思い込んでしまうように作られている「涼宮ハルヒの分裂」。もちろん、「涼宮ハルヒの消失」で、「タイトルに書かれていることは事実とは限らない」という前例を作っていなければ、「読者にフェアじゃない」の一言で片付けられてしまうであろうが、そのあたりに抜かりはない。


次に、世界が分裂したとは限らないのはいいとして、じゃあなんで世界が分裂したと解釈するとまずいのさ、という話。
仮に、第二章もしくはその少し前の段階で世界が2つのパラレルワールドに分離したとしよう。P.100より、それをやったのはハルヒ
さすがに驚愕以降もパラレルワールドのまま物語が続くというのはありえないので、こうだと仮定すると、「どうやって世界が分裂したことに気付くのか」「どうやって世界を統合するのか」「そもそもなぜハルヒの感情が世界を分裂させることになるのか」という疑問が生じる。他にも、P.100の描写より、「世界が統合した後のキョンはαβ両方の記憶を持っていることになっている」という点があまりに不可解。
もちろん、なんちゃってSFに不可能はないのであって、これらの疑問点も解決しようと思えばできないこともないのだろうが、そのために展開が不自然になってしまうのは不可避。
というわけで、世界は分裂したのではない。


では、世界が分裂してないんだったらαβはなんなのよ、という話。
そもそも、この「涼宮ハルヒの分裂」、「学校を出よう!」に非常に近い。メタ具合が。
んで、「学校を出よう!」といえば平行世界の話。ものすごい理論によって有限しかないことが示される平行世界の話。ちょっとは時間を操作するけど基本的には空間を操作する話(ここでの「操作する」は「移動して修正する」みたいな意味)。で、一方の「涼宮ハルヒ(シリーズ名)」は、空間ではなく時間を操作する話(世界改変とか閉鎖空間は違うので注意)。
つまり、「学校を出よう!」っぽく書くことによって、本来時間しか扱えないはずのハルヒワールドで空間操作が起こったように見せている、というわけ。これもミスリードの手法の1つ。
が、これに関しては、逆に考えてみればそれがそのまま答となる。
ハルヒワールドでは時間しか扱えない。ゆえに、このαβは同時に存在している2つの別世界ではなく、ある1つの世界で時系列順に起こっている出来事の記述なのである。……というと誤解を招くな。まあ要するに、「涼宮ハルヒの消失」で起こったことと同じことが起こっている、ということ。つまり、まずβが先にあり(この理由は後述)、後にβ歴史はα歴史に上書きされる、ということ。




αβの仕組みが分かったところで、次は細かいストーリー展開についての予想に入る。
ハルヒ1年目長編全4巻に対する妖精作戦シリーズ全4巻のように、パロディ元内容を予想する上で役に立つ本があればそれをヒントにすることもできるのだろうが、残念ながら今のところそのような本は見つかっていないので、純粋にハルヒシリーズ中の描写のみに基づいて予想を進めていく。


まず、カギとなるのはα−6の少女。「どこかで見たことがあるような気がする」が、「絶対に出会ったことなんかないという確信がある」少女。仮に世界が分裂したと仮定すると、この部分に合理的な説明をつけるのに相当無理をしなくてはいけないのだが、αβが時(?)系列順であるならばここの理由付けは容易。「βの世界で一度会ったのだが、その歴史はαに上書きされて消えた」これでよい。さっきαのほうがβより後だと断言したのは、この部分が主な理由。世界が上書きされても既視感が残ることもある、というのはエンドレスエイトの前例があるし。そう考えると、「俺の一年下にこの女子生徒はおろか、似たような人間が存在した『歴史』はない」という文章も読者へのヒントということになるし。
で、そうなるとこのα−6少女、「今までに会ったことのある誰とも似ていない」のだから以前に出会ったことのある誰かとかではなく、分裂以前には1回も登場していない完全なる新キャラクター、ということになる。で、さすがにこんなに不思議な出現の仕方をしておいて、何の能力もない一般人、ではさすがにないだろう。では何になるのかというと、


――――異世界人。
まあ、直感的には異世界人とか出てこないような気しかしないし、これ以上一度に新キャラクターを増やしていいものかというのは非常に疑問だが、これ以外に合理的な解が存在しないのだからやむを得ない。「すべての非合理的な可能性を消去していくと必ず最後に唯一の消去できない可能性が残り、それがたとえどんなに信じがたいものだとしても残ったからには真相と呼ばれる」by 観音崎異世界人に何ができるのかは不明。「上書きされる前の世界と上書き後の世界を行き来できる」? 不明。
……実を言うと他にも解がありそうだったりするのだが、それについては後述。


α−6の少女ときたら次はα−1の少女。この2人、どちらもキョンの「後輩」らしいことより、同一人物であると推測されがちだが、この2人が別人であることは論理的推察のみによって分かる。
「声に聞き覚えはない」が、「イントネーションは誰かに似ている」。声とは声帯などの体の形に依存するもので、イントネーションとは思考によって影響を受けるものである。体は違うが頭脳は同じ、つまり、既存キャラクターの精神はそのままに、外見だけが変わった人物だということになる。で、こんな器用なことができるのは、ハルヒを除けば宇宙人のみ。さすがに長門はないとすると、残るのは朝倉2世か喜緑さん別形態。なんとなくまだキャラが固まってない後者のような気がするが、根拠はない。
なお、もしこのα−1少女がα−6少女と同一人物、つまりβ世界でキョン接触したことのある人物だとすると、α−1少女の声に聞き覚えがないことに矛盾する。よって別人物。


と、α−6少女は異世界人の新キャラクターで、α−1少女は外見変えた朝倉か喜緑さん、という結論に持っていったわけだが、新キャラを増やしたくないのならば別の解釈も一応存在できる。
・朝倉2世と喜緑さん別形態はそれぞれα−1少女とα−6少女のどちらかで、β世界でキョン接触したのはα−6少女のみ。
→確かによさそうな解釈ではあるが、α−6少女が「誰にも似ていない」という点がひっかかる。常識的に考えれば、情報統合思念体のスペックがそこまで低いわけはないのだが、物語的には朝倉2世の外見には朝倉涼子の面影があってほしいし、喜緑さん別形態には喜緑さんの面影が残っていてほしいよねぇ。
・α−1少女とα−6少女は、それぞれ喜緑さん第2形態と喜緑さん第3形態。
→無茶。さっきの疑問もそのままだし。
・α−1少女とα−6少女は同一人物で、キョンはβでその少女の姿形は見たが、声は聞いていない。
→その少女が異世界人であるとするとイントネーションが誰かに似ていることに矛盾。宇宙人だとするとやはり姿形が誰にも似ていないという点がひっかかる。
というわけで、……正直どれも微妙。「誰にも似ていない」さえなければどうにでもなるのだが。


次に考えるべきなのは、物語がαとβに分かれたことの『理由』。意味ではなく『理由』。なぜ歴史βは上書きされてしまったのか。
消失のときのように、キョン陣営がβをαに上書きしたと考えると、αのSOS団が誰もβの記憶を持っていない(ように見える)ことに矛盾。で、次に考えられるのは、佐々木陣営による歴史改変だが、これも、P.100の「涼宮ハルヒが、それをしたんだ――。」に矛盾。よって歴史改変をしたのはハルヒエンドレスエイトのときと同じ。キョンたちだけでなく、ハルヒ本人にもβ歴史の記憶は残らない。
で、ここから推論を進める鍵になるのは、「涼宮ハルヒの驚愕」というタイトルそのもの。さっきは「タイトルに書かれていることは事実とは限らない」とは言ったものの、いくらなんでもタイトルに書かれていることと内容がかすりもしない、などということはありえない。よって、どこかで「涼宮ハルヒ」が「驚愕」するはずである。
んで、ハルヒが「驚愕」する理由っていったら、もはやこの世界が不思議世界であることを知る、ていうかもういっそのこと自分が神的な能力を持っていることを知る、くらいしかありえない。ゆえにそうなる。知らせたのはたぶん佐々木。か橘。んで、その結果、ハルヒに何らかの強い感情の動きがあり、神能力を暴走させてβ歴史を改変してしまう、と。以後β歴史が描写されるはずだったページは白紙となる。これだと最終的にハルヒは驚愕の事実を知ったことを忘れてしまうので、驚愕が最終回になってしまうようなことはない。


あと残った問題は「α世界での展開」について。さすがにα世界で何も問題が起こらないまま終わってしまうはずはないので、何かしらの事件が起こるはずである。それも驚愕の。
で、ここからはいわゆる「予想」らしい内容予想になるのだが、自分は「α歴史に入った段階で、神的な力はハルヒから佐々木に移っている」に一票入れたい。以後、これを仮定してストーリーを構築してみることにしよう。
β世界で自分の能力を知って驚愕したハルヒは、その神的な力によって、自分の力を佐々木に移した上で、αβ分岐以前の時間にエンドレスエイト現象を起こしてしまう。その結果、α歴史はβ歴史と同じような展開を辿ると思われたが、橘あたりが佐々木に神力が宿っていることに気付いたため、キョンを呼び出す必要がなくなり、β−1での佐々木→キョンの電話はなくなる。
一方、エンドレスエイト現象に気付いた異世界人、ないしは宇宙人またはそれらの連合軍はその事実をSOS団に伝えるため、α−1でキョンに電話したり入団希望者としてSOS団に近づこうとする。ハルヒに力がないことを知ったSOS団(ハルヒ除く)は、奔走の末なんやかんやあってハルヒに気付かれずに力を戻すことに成功するのだった――


最後ものすごい省略があったがまあこんな感じだと予想。


最大の問題は、ここまで山盛りな内容が「涼宮ハルヒの驚愕」1冊に収まるのか、ということであるが、
……まあ、陰謀並みの厚さにしてなおかつ今までのながるんからは考えられないくらい無駄のない書き方をすれば収まるんじゃないでしょうか。多分。




それでは最後に、以上の内容を仮定した上で、分裂以前の気になるシーンなどを見てみることにしよう。


・最近ハルヒ閉鎖空間の発生頻度が上がっている件
→この感情のモヤモヤが「驚愕」→「歴史改変」に繋がるのか。
・小泉曰く、ハルヒのモヤモヤに対する対処方法がなくもないらしい
→これがハルヒに能力を戻すときのカギとなるのか。
・橘曰く、「ハルヒの力を佐々木に移すのにはキョンの協力が必要」
キョンには何の力もないはずなので、これはおそらく「キョンに、ハルヒに対する何らかのアクションを起こしてもらう」といった程度の意味であろう。どうにかしてストーリーに絡んでくるのか。
・陰謀にて、朝比奈さん(大)曰く、「近いうちに、もっと大きな分岐点がやってきます」
ハルヒ神世界と佐々木神世界か。
キョン離脱後の、佐々木と藤原の会話
ハルヒの力を佐々木に移すことに関する、もしくは歴史改変に関する会話か。
・陰謀にて、藤原曰く「解っていることをそのままなぞるなんて嫌気が差す」
→歴史改変肯定しそう。
・分裂にて、藤原曰く「力が存在するなら、それが誰にあろうと関係ない」
→歴史改変否定しそう。
・「恋愛感情なんてのは精神的な病の一種だよ」
→過去にハルヒ―佐々木が接触していたフラグ。力をハルヒに戻すときに使うのか。
・最近キョンが何の力も持ってないくせに調子乗り気味
→大事件発生フラグ。
・α−2「何と言っても、僕たちの側には涼宮さんがいるのですからね」
→既にハルヒ力消失してるフラグ。
・α−6古泉「九曜さん側のインターフェイスがいたら、長門さんが無反応ではいないでしょう」
長門さん側のインターフェイスはいるフラグ?
・P.100「その俺の予感は文字通りに半分当たりで、半分は外れることになる。」
→結局SOS団正規団員は増えて終わるのか、そうでないのか。直感的には増えない気がするが。
涼宮ハルヒの「奔走」
→時間の流れ(時間は流れているか否かという命題はここでは問題にしない)の中を行ったりきたり、というのが「奔走」か。奔走の動作主もハルヒで間違っちゃいないし。
・分裂P.100「あんなにややこしいこと」
→不安要素1。この予想内容はそれほどややこしくない、気もする。
・分裂P.123「俺を初めとする全員は、とっくに渦中に放り込まれていた」
→不安要素2。β歴史が始まる前の段階では、まだ渦中に放り込まれていたとは言えない。
ザ・スニーカー8月号「αとβに分裂してしまった日常」
→最大の不安要素。本来ならば、こう書いてあるのだから世界は分裂したものと仮定して話を進めるべきだが、どうにもその仮定のもとでは様々な矛盾点を解決することができなかったので、この記述は無視した次第。まあながるん本人が書いた文章というわけではなさそうだし、角川のチェック体制がきちんとしているのならばあそこまでハルヒ本文とのいじ絵が矛盾することもないだろうし。
百人一首暗唱大会、および直後の四字熟語イベントがなんか浮いてる
→まあ以前に何の意味も脈絡もなくxとzが対称なオイラーの多面体定理出した人だし。
・朝比奈さんと長門のファーストコンタクトは憂鬱以前にあったフラグ
→どう見てもサブイベント。
・谷口―周防カップルフラグ
→どう見てもサブイベント未満のイベント。